離婚協議や調停において、子どもに関する事柄は大きな争点の一つと言えるでしょう。
親権の決定はもちろん、親権者が決定した後も、
子どもの引き渡しに際してトラブルが起きるケースも多くあります。
特に、離婚に際して子どもを監護(実際に育てること)していた親が、親権者とされなかった場合に、
親権を失ったにも関わらず、親権者への引き渡しに応じないといった事態が多く起きていたため
2019年5月に成立した『改正民事執行法』で、「子の引き渡しの強制執行」について
明確なルールが設けられました。
現在の子の引き渡しに関する問題点
日本では、離婚後の親権については『単独親権』(父または母のいずれかしか親権者になれないとする制度)とされています。そのため、離婚に際して、子どもを監護(実際に育てること)していた親が親権者とされなかった場合に、親権を失ったにもかかわらず、子どもと同居を続けて手放そうとしないといった事態が多く起きています。
親権者となった親が子どもを引き渡すように要求しても、任意での引き渡しがなされずに紛争が激化した場合には、『子どもの引き渡し』を裁判所の執行官が行うことができるとされてきました。
しかし、実際の強制執行に際しては、子どもを監護している親(引き渡しを命じられた親)が強硬に反対することで、執行が不能となることも多いというのが実態です。
また、強制執行の際には、原則として監護している親の立ち会いが必要でした。
そのため、強制執行の場所が自宅などに限定されることとなり、強制執行を受けることが想定されるケースにおいて、監護している親が子どもを連れて一時的に逃げてしまったり、居留守を使ったりする事態も生じていました。
子どもの引き渡しについてのルールが明確化
この問題の一因として、従前の『民事執行法』には子どもに関する強制執行の手続きが明文化されていないという点が指摘されていました。子どもの引き渡しについては、『動産』の引き渡しの条文(民事執行法169条1項)を類推適用して運用されていたのです。こうした事態を受けて『改正民事執行法』では、“子どもの引き渡しの強制執行”および“養育費に関する強制執行”について、新たな制度の創設がなされました。
このなかで、離婚した夫婦間で親権者に子どもを引き渡す“強制執行”のルールが明確化されています。
具体的には、親権がないまま監護をしていた親(引き渡しを命じられた親)が不在でも、親権者(引き取る側)が立ち会えば、親権者への子どもの引き渡しが可能となります。
監護していた親が介在しない学校などにおいても、引き渡しの強制執行ができるようになるわけです。これにより、監護していた親が子どもを連れて一時的に逃げることや、強制執行に応じないというケースを減らすことができると考えられています。
『改正民事執行法』は2019年5月に成立し、1年以内の施行が予定されています。
ルールは明確化されたわけですが、実際の引き渡しにおいては、子どもの心身に十分配慮したうえで、慎重に行うべきであることは言うまでもありません。
※本記事の記載内容は、2019年7月現在の法令・情報等に基づいています。
2019年 11月 5日 | 法律豆知識
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